朱鷺の杜(IBIS)ブログ

情報論的学習理論(IBIS)に関する管理人の独断と偏見に満ちた意見

就職先としての産総研

いわゆる就活というのがいつから始まるのかよく知らないのですが,今日は産総研への就職についてのメモ.

産総研になってから,うちのグループも優秀な人材を採りたいとは思っているのですが,なかなか採れないという事態が続いています. これまでも非常に優秀な方がアプライされてきたにも関わらず結局採用できないということを繰り返してきたのでなんとかしたいという思いもあります.

うちがダメになっても,結局ほかに移って活躍されているようですのでそれはそれでいいのですが.


ちなみに公式な採用情報はこちらです: http://www.aist.go.jp/aist_j/humanres/index.html あまり情報はありませんね.

そもそも産総研とは: http://www.aist.go.jp/aist_j/information/index.html

歴史: http://www.aist.go.jp/aist_j/information/history/history.html にあるように経産省工業技術院にあった国立研究機関が独法化に伴って全部一緒になったものです.



再来年の採用についてはまだ始まっていませんが,年明けぐらいにぼちぼち公募が出ると思います.

以下に産総研の採用の流れをおおまかに書きます(守秘義務があるのであまり細かくは書けません).

産総研は大きな組織ですが,その中に部門やセンターというまとまり(ユニット)があります. まず,上から各ユニットの推薦枠というのが割り当てられ,それに従って公募資料を各ユニットが作成し,公募がかけられます.

通常はユニットごとの推薦枠は1~2人くらいのところに,何十人も応募があります.
そこで,各ユニットではその推薦者を決めるための予備選考を行います. 具体的には書類審査や予備面接ですが,細かいやり方はユニットごとに違います.

ユニットから推薦されれば採用となるわけではありません. 各ユニットから推薦された人全員に対して産総研全体の審査があります. ここでの倍率についてははっきりわかりませんが,かなり厳しいという話です.

特にこの最後の産総研全体での審査というのが大変で,異分野の人たちの中から勝ち残る必要があります. それで,新規採用の年齢がどんどん上がってしまい,ポスドクを渡り歩いて実績を重ねた人だけが採用されるという実態になってきました. 産総研もそのあたりは反省して,若い人を重視して採用するような重みをかけるようになり,多少は改善されているようです. 情報系が厳しいのは,インパクトファクタなんかで比べると論文勝負は難しいので,メディアへの露出とか別な意味で突出しているというのが有利に働いているという感じもしないでもないです(あくまで個人的な見解ですが).


なお,このやり方で行う採用のほとんどは「若手型任期付研究職員」という形です. これはいわゆるテニュアトラックということで,実績さえ積めば高い比率でパーマネント職員に移行できます.

それ以外に,「中堅型研究職員」といってグループリーダーなどを雇ったりするスキームや,任期付きでも特定のプロジェクトにひも付けされた「研究テーマ型任期付研究職員」というのもあります.

これらは正規職員ですが,それ以外にもポスドクとして,産総研の研究者が自分の研究費で雇用したり,学振 PD の受け入れ先という形での雇用もあります. これらの雇用については産総研全体での審査というのはなく,基本的に担当する研究者の裁量で審査されます.

産総研にはもう一つあまり知られていない採用方法があります. それは主に修士課程修了見込みの若い人を採用するという仕組みで,産総研が独自に行っている試験を受けて入る物です. 私が産総研の前身の一部である電総研に入ったときは修士を出て国家公務員試験を受けて入ったのですが,それに相当する物です. 実際,今年度から櫻井さん@山西研.東大出身がこの制度で産総研に入られました. 残念ながら私のグループではないところですが.


公募採用の場合,それほど就活対策的なものはなく,エビデンスをたくさん積んで,面接のときのプレゼン能力が高いというのが重要です(まあそれだけで振り分けられてしまうのは問題といえば問題ですが). なお,あらかじめポスドクで産総研にいて研究内容をよく知られているとか,研究者を訪問して自分を売り込むというのはそれなりに意味があるかもしれません. これはコネがどうこうという話ではなく,

・産総研でどのような人材を採りたいと思っているかの把握がしやすい

・自分の研究内容をバイアスなく見てもらえる(プラスのバイアスもマイナスのバイアスもなくなりますが^^)

・産総研が実際どんな研究所かがわかって自分との相性も計れる

というような意味です.



あとは,産総研に採用された後どうなるかという話もそれなりに興味があると思いますので書いておきます.
(いろいろあると思うのでより細かい点は直接聞いてもらえればお答えできると思います)

研究については部門によっても違いますが,私のところではほとんど何の制約もなく自分の意志に従って研究を進められます. 「産業」というのをそれほど意識する必要はありません(もちろん上からはいろいろな声が降ってきますがそれほど気にする必要はない). 教育の義務がない分大学より雑用が少ないとも言えます. 学生さんはその気になれば大学から実習生という形で受け入れられます.

給与については,多少の違いはあれ,国立大学や国家公務員と同じ(私学より少し安い?)レベルです.
給与規定は公開されている http://unit.aist.go.jp/comphq/comp-legal/ci/legal/kitei/pdf/kyuyo-s.pdf のでこれを見ればわかるはずですが,この規定から自分の給料がいくらになるか,今後いくらになるかを推計することは困難です.

評価は短期評価(毎年の実績を上司が評価して,結果はボーナスの一部に反映される)と長期評価(適当な年数が経過すると,上の級に上がる昇格の審査)があります.

研究所は大学の教授や准教授ように役職名というのが明確にあるわけではないので,わかりにくいですが,准教授が教授に上がったりするのが昇格です.


以下,機械学習系の研究者の場合の追加情報です.

考えられる部門・センター(原則的に部門はより基礎的で,センターは時限でプロジェクト的です):
・ヒューマンライフテクノロジー研究部門 http://unit.aist.go.jp/htri/ (私やしましまさんなどがいる部門・ライフサイエンス分野・前にいた脳神経情報研究部門はお取りつぶしになりました^^)
・知能システム研究部門 http://unit.aist.go.jp/is/ci/index_j.html (麻生英樹さんなどがいる部門・情報通信エレクトロニクス分野)
・情報技術研究部門 http://itri.aist-go.jp/ (音声の後藤さんや吉井さんがいる部門・情報通信エレクトロニクス分野)
・生命情報工学研究センター http://www.cbrc.jp (津田宏治さんがいるセンター・ライフサイエンス分野)
・サービス工学研究センター http://unit.aist.go.jp/cfsr/index.htm(本村さんが副部門長で新人の櫻井さんもこちら・情報通信エレクトロニクス分野)
・デジタルヒューマン工学研究センター http://www.dh.aist.go.jp/jp/(情報通信エレクトロニクス分野)
# ただし,よく組織改編が行われますので注意してください.

勤務地:上記部門やセンターの場合つくばかお台場です.どちらかによって住環境もかなり違いますが,つくばなら公務員宿舎に入れます.

というわけで優秀な若い方がどしどし産総研にアプライされることを期待しています!
(疑問点はわたしまでご連絡ください)



その他参考
なお,事務職員・計測標準研究職員についての情報はこちらです:りくなび: http://job.rikunabi.com/2012/company/top/r262410020/
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IBIS2011の感想および...

奈良女子大で開催されたIBIS2011に参加しました.

@shima__shima: 朱鷺の杜Wikiからリンクしようと思ってるのだが,今年のIBISについて書いてくれてるブログがないょぉ? (゜◇゜)ガーン

とのことですのでみなさん書きましょう.

ただ,最近は twitter でツイートして満足してしまうことも多いので,それらをまとめて togetter すればいいかも
(ちなみに昨年のはこちら)

あと,しましまさんのまとめがしっかりしすぎているのでそれに追加することが特にないということもあります.

オーガナイズドセッションは非常によくオーガナイズされていて,どのセッションもすごく勉強になります.

一方,ポスターセッションはあまりにも盛り上がりすぎて時間が足りない感じでした.
会場の制約もあるので仕方ないですが,昔の合宿形式の時のようにエンドレスでやれるのが理想でしょうね. 現状だと,発表している人はほとんどほかの発表は聞きに行けない感じです. 私は自分の発表はそこそこにして他の人の発表を聞きに回りましたが.

ポスタープレビューは,ちょっとネタ的な発表をしたのですが,事前にツイートしたのが裏目に出て,みんなの期待度が異常に高まってしまい,ほとんど受けませんでした. しかしその後某社の方々が掛け合い漫才風プレゼンとか自虐的プレゼンなどヒートアップしたものをやっていただいたので,その火付け役にはなったかなと思っています.
(追記: ibis2011 のホームページにはまだ掲載されていないようなのでネタ部分だけ載せておきます)

自分は連名を含めて3件の発表をしましたが,いずれもディスカッショントラックで,まだまだ preliminary な内容なのでこれからブラッシュアップしていかねばという思いを新たにしました.




...と,投げやりな感想を書いた上で,本題(^^;)ですが...




「カーネル多変量解析」がおかげさまで11月4日付けで4刷になりました!!!



### IBISネタで釣っておいて自分の本の宣伝をするというあこぎな商法^^

前回の増刷から1年半以上経っており,増刷間隔も指数関数的に空いていて,次回増刷があるかどうか不透明ですが,いずれにせよこれまでのみなさまのご愛顧に感謝いたします.





多くの方にご指摘いただいた誤植もほぼ修正されています(難しいのは放置^^;;;).

...と思ったら重要な修正を忘れていました.

サポートページのアドレス,組織改編があって朱鷺の杜wiki内に移したのを忘れていました.うーむ,早速誤植情報更新しておかないと.

# なお,産総研はちょこちょこ組織改編しているんですが,なくなった部門のページは1年経つと自動的に消されるという方針なので,そういうところに大事なものを置いておいたのが間違いでした.


気を取り直して...

本を書くというのは,お金という意味では大したことなく,むしろみなさんからいろいろ感想やらフィードバックをもらえること自体が著者へのご褒美です. 今後ともよろしくお願いいたします.

科研費について

科研費について書こうと思っていたのだが,ここのところいろいろ発表準備とかで忙しかったので今頃になってしまった. 多くの組織ではすでに組織内締め切りが終わっていると思うので今年についてはあまり役に立たないかもしれないが来年以降の参考になるかもしれないと思いメモ.

科研費は大学や独法研究機関の研究者にとって研究費の大きな糧である. 昨今国からの交付金が毎年何%かずつ減っている状況では科研費なしに研究するのは難しい.

私は昨年度から2年間,「スタート支援」という枠の審査委員を務めさせていただいた.審査委員には厳しい守秘義務があり,公表されるまでは自分が審査委員であることも守秘義務の一つである.
現在は JSPS のホームページにも名簿が出ているのでこうやって書くことができるわけだが,当然ながら審査の詳細については守秘義務の範囲内でしか書けないのであらかじめご承知いただきたい.

JSPSの科研費審査に関するページ

なお,スタート支援は今締め切りを迎えている基盤などとは時期も性質も若干違うのでそのあたりもご注意を.


さて,大まかな審査の流れは上記のページに書いてあるように,一次審査(書面)と二次審査(合議)からなる.
スタート支援では同じ審査委員が務めるが,基盤などではそれぞれ別の委員が務める点が異なっている.

まず,書面審査だがこれが大変である. JSPS から大きな冊子が何冊も送られてくる. 分野や年によっても違うが一人がおよそ100件の審査書類を2週間程度の期間で審査する.
何をどう審査するかは上記のページの規定や手引きの pdf が参考になるが,各申請書類ごとに学術的意義とかいろいろな観点から点数付けし,最後に全体評点とコメントを付ける.
これが大変な作業で,かなり幅広い分野に及ぶので,自分のよく知らない分野の申請書類については web や本などでその分野の動向を調べる必要があるし,コメントも長所短所を詳しく書くように JSPS に指示されている.
さらに,総合得点については全体の評点がガウス分布状に均等に分布しないとシステムが受け付けてくれないという厳しさである.

というわけで,1件の審査にかなりの労力を要するので,2年目は NIPS のレビューも断るなど万全の体制で望んだのだが,そのうち1週間は海外出張で潰れるということになってしまい今年も大変だった.
これの合否が研究者の研究活動に大きな影響を与えるかと思うとそうそうおろそかな評価はできない.

さて,合議審査は書面審査の結果に基づいて1日缶詰になって審査委員のグループで協議を行う.応募数の割に採用できる数が極めて少ないので,特にボーダーライン付近の多数の申請書の中でどれを採用するかは分野が幅広いこともあり相当難しい. 最後の2-3件を決めるときはかなり長い時間をかけて熱い議論が戦わされる.

どんな申請が通りやすいかについて web で検索するといろいろ出てくるが,こればかりは審査委員や分野によってもかなり違うようなので一概には言うのは難しい(もちろん守秘義務があるのであまり書けないというのもあるが).
ただ,一般論として問題のないと思われる範囲でいくつかポイントを挙げておこう(私見もあるので責任は負いかねます.念のため).

・審査の手引きなどを読んで,何がどう審査されるのかを見て,それに沿って書かれているか見直す

・科研費では,高額の申請以外は研究終了後のレビューは(短い成果報告を出すだけで)ほとんどない. だから,申請者が本当にこのテーマでできるのかということを審査委員に納得させる必要がある. エビデンスもないのにあまり大風呂敷でもだめだし,かといってあまりトリビアルな研究でも評価が低くなる.

・申請書はできるだけたくさん埋まっている方がいいという話があるが,単純に引き伸ばしてだらだら長いのは逆効果な気もする.

・かなり細かい点まで審査する必要があるのでナナメ読みすることはあまりない. だから,キーワードを太字や下線などで過度に装飾してあると文章として読みにくいのでやり過ぎは逆効果かもしれない.

・審査はモノクロ印刷された紙ベースで行うのでカラーは使わない.

・予算の使用予定については科研費で支出することが必然であるというロジックが必要である. 科研費は配分してからはある程度自由に使える(ただし昨今はかなり使途がかなり厳しく制限されはじめている)ので,あまり曖昧だと本当にそれに使うのか,その必要があるのか疑念を抱かれかねない. 分野によっては旅費などあまり多額に積んであると嫌われることもあるようだが,情報系をはじめ理論系などでは旅費は主要な研究活動費だから正直に詳しく書いてあれば特に問題ないと思う.

また,科研費の分野ごとの採択数はその分野での応募数と応募額に比例する(これを単純に平均している所がどうかという話はあるが).正確な計算式は規定のp.42にある. これがあるため,いくつかの分野のメーリングリストでは分野全体に応募を促すようなメールが流れることがある. そもそも研究費不足が慢性的に起きているのでそんなことしなくてもみんな応募するとは思うが,一応知っておいたほうがよいだろう.

現状の審査システム自身いろいろ問題を含んでおり,合議審査の最後にもそれについて議論する時間があり,JSPS に要望がいろいろ出ているようなので,少しずつ改善はされていくと思う.
そもそも審査のオーバーヘッドが非常に高いので,研究者として最低限研究していくだけの低額の科研費についてはバラマキでもいいという意見も聞いたが,ある程度そのとおりだと思う(これは論文の査読制度についても同様).

あと,JSPS が提供しているのは MS word の書類だが,ずいぶん操作性が悪いようで,私が twitter でフォローしている TL では LaTeX の科研費マクロが好評なようだ.私も次回応募するときは LaTeX マクロで書こうと思う.

なお,科研費について検索すると科研費の審査委員の統計問題提起しているブログなども見つかりいろいろ考えさせられる.

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